展覧会情報Exhibition Information

次回の展覧会Next Exhibition

平安時代前期に活躍した在原業平(825~880)は、天皇の孫で和歌に優れた貴公子です。その「歌仙」として、また「恋多き歌人」としての人物像は、彼の和歌にくわえ、『伊勢物語』の主人公に仮託されることで拡散していきました。2025年は、業平の生誕1200年にあたります。 これにちなみ、現在でも人気が高い業平と『伊勢物語』を題材に生み出された絵画・工芸等の作品を集め、そのイメージの広がりの豊かさと、造形の魅力を探ります。

2025年度は、三井記念美術館が2005年10月に開館してから20周年にあたります。この特別展は、これを記念して開催する特別展の第二弾です。
2025年は在原業平(ありわらのなりひら)生誕1200年の年に当たります。本展監修者の河田昌之氏から根津美術館と当館での展覧会開催のオファーがあり、両館で協力して開催することとなり、それぞれの館で内容の異なる伊勢物語の展覧会を開催することとなりました。当館での展示は趣旨のような内容になります。なお、根津美術館の展覧会は2025年11月1日〜12月7日に開催されました。

展覧会の趣旨

平安時代前期に活躍した在原業平(825〜880)は、天皇の孫で和歌に優れた貴公子として知られます。その「歌仙」として、また「恋多き歌人」としての人物像は、彼の和歌にくわえ、『伊勢物語』の主人公に仮託されることで拡散していきました。
2025年は、業平の生誕1200年にあたります。これにちなみ、現在でも人気が高い業平と『伊勢物語』を題材に生み出された絵画・工芸・茶道具等の作品を集め、そのイメージの広がりの豊かさと、造形の魅力を探ります。加えて、和歌の典拠の一つとされる『古今和歌集』や、近世における普及の一端を担った版本・絵入本などの典籍を通じて、『伊勢物語』の成立と普及の過程についても展示いたします。

展示構成

展示構成は以下のように展示室ごとのテーマで展示いたします。

展示室1
ダイジェスト伊勢物語
展示室2
伊賀耳付花入 銘業平
展示室3
如庵 「能の業平」
展示室4
絵画化された伊勢物語
展示室5
歌仙在原業平と伊勢物語
1,歌仙在原業平 2,伊勢物語の成立 3,伊勢物語の展開
展示室6
伊勢物語の名所
展示室7
伊勢物語の意匠化と芸能化
1,留守模様とデザイン化 2,伊勢物語の芸能化

主な展示作品

展示室1ダイジェスト伊勢物語

伊勢物語は全125段の章からなっています。この中から一般的にもよく知られた章段を15選び、各章段ごとに絵巻・色紙・かるた・合貝(あわせがい)・茶道具などで具象化された伊勢物語の世界を垣間見ていただきます。
最初は、歌仙業平の姿を岩佐又兵衛が描いた重要文化財 三十六歌仙図額の業平像(図1)をご覧いただきます。

続いて重要文化財の伊勢物語絵巻から、西(にし)(たい)に住んでいた女性の思い出に涙する男を描いた第4段「西の対」(図2)の場面。

伊勢物語芥川(あくたがわ)武蔵野図扇面(むさしのずせんめん)(図3)は、高貴な女性を連れ出し、芥川で夜も更け雷雨となり、荒れた蔵に女性を入れて守るが、鬼が出て食べられたという話と、娘を盗んで武蔵野に連れて行くと、男は娘を残して追っ手から逃げ、娘は捕えられ、追っ手が野を焼こうとするのを娘が和歌を詠んで止めたという、二つの有名な章段を描いた扇面です。

貝合わせの合貝(あわせがい)(図4)は「筒井つの井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに」でよく知られている第23段「筒井筒(つついづつ)」の図です。

瀬戸落穂手茶入(銘田面(たづら))(図5)は、第58段「田刈らむ」にある和歌「うちわびて落穂ひろふと聞かませば我も田面にゆかましものを」から銘が付けられています。刈り取った稲の株をイメージさせる器形から命名されたものと思われます。

展示室2伊賀耳付花入 銘業平

全体に変形(デフォルメ)が強く、無造作な耳が付き、自然釉が織りなす景色は、古伊賀花入の特徴で、千利休の弟子七哲の一人にあげられる古田織部(1544~1615)の好みが反映されているとされます。利休的な規格を破った「破格の美」といわれ、利休亡きあとの茶の湯界をリードしました。

この花入は、『大正名器鑑』編纂の折に、関東にあった伊賀花入の名作5点が集められ「(あずま)五人男」と呼ばれたうちの一つです。益田家から永坂町三井家八代三井高泰(たかやす)(号泰山(たいざん))に伝わり、その後室町三井家十二代三井高大(たかひろ)に譲られて、「業平(なりひら)」と銘が付けられました。

展示室3如庵 「能の業平」

如庵写しの茶室ケースでは、床に浮田一蕙(うきたいっけい)筆の武蔵野図を掛け、その前に重要文化財の能面中将(金剛頼勝作)を展示し、その傍らに能道具の冠り物(初冠(ういこうぶり))と、折り畳んだ紫地業平菱模様長絹(むらさきじなりひらびしもようちょうけん)を展示します。いずれも当館の所蔵品です。

展示室4絵画化された伊勢物語

伊勢絵(いせえ)、すなわち伊勢物語を描いた絵の歴史は古く、かの『源氏物語』「絵合(えあわせ)」の帖にも登場することが知られています。ただし、それら平安時代のものは既に失われたとみられ、今日に伝存する作品はいずれも、鎌倉時代以降のものです。本章では中世の貴重な作品から、宗達(そうたつ)に連なる尾形光琳(おがたこうりん)ら、琳派の画家による美麗な伊勢絵に至るまで、様々な作品を紹介いたします。

中世の作品では、香雪美術館所蔵の「伊勢物語図色紙」(図7)に要注目です。こちらは全17点のうち、2025年11月の根津美術館における特別展「伊勢物語 美術が映す王朝の恋とうた」に未出品の8点を展示いたします。いずれも所蔵館以外では初公開の作品となります。また、後述する『嵯峨本(さがぼん)伊勢物語』の挿絵のルーツとなった可能性がある「伊勢物語図色紙貼交屏風」(サントリー美術館蔵)[展示期間:3/8〜3/22] も、伊勢絵の展開を追ううえで重要な作品です。

近世の作品では、しみじみとした抒情をたたえる、深江芦舟(ふかえろしゅう)による重要文化財「(つた)の細道図屏風」(図9、東京国立博物館蔵)が注目されます。第9段2の「宇津の山」に基づいており、遠い都を思いながら、蔦のからまる山道を歩く一行を柔らかな筆致で描いた作品です。芦舟は一般的知名度こそありませんが、光琳に学んだと伝わる、宗達風をよくした名手の一人です。

このほか、いわゆる「宗達色紙(そうたつしきし)」の伊勢絵(図10、個人蔵) や、尾形光琳の「業平東下り図」 (五島美術館蔵) [展示期間:2/21〜3/15]、また酒井抱一(さかいほういつ)鈴木其一(すずききいつ)(図11)、中村芳中(なかむらほうちゅう)といった宗達・光琳の画風に私淑した画家の作品を中心に展示いたします。これらにくわえ、浮世絵版画にみられる伊勢物語の見立てや、釈迦の入滅(にゅうめつ)に見立てられた業平の図(図12)など、パロディの題材となるほど物語が浸透した様子を、絵画からも(うかが)います。

展示室5歌仙在原業平と伊勢物語
1,歌仙在原業平

10世紀初頭に成立した最初の勅撰和歌集『古今和歌集(こきんわかしゅう)』の仮名序で、「ちかき世にその名きこえたる人」として六人の歌人すなわち六歌仙(ろっかせん)があげられていますが、業平はそのうちの一人です。その六人とは、在原業平、僧正遍照(そうじょうへんじょう)喜撰法師(きせんほうし)大友黒主(おおとものくろぬし)文屋康秀(ふんやのやすひで)小野小町(おののこまち)です。ここでは当館所蔵で今回初公開の押絵(おしえ)六歌仙帖(図13)を展示いたします。

在原業平(825~880)は、平城(へいぜい)天皇の孫で、阿保(あぼ)親王の五男ですが、臣籍に降下して在原姓を名のり、官位は右近衛権中将だったので在五中将(ざいごちゅうじょう)と呼ばれました。そのため描かれる業平像は武官姿に描かれます。藤原公任(ふじわらのきんとう)(966~1041) が撰んだ歌人の「三十六人撰」にも選ばれています。

古今集の時代から約300年後の13世紀初頭に八番目の勅撰(ちょくせん)和歌集『新古今和歌集(しんこきんわかしゅう)』が後鳥羽院(1180~1239)の勅命で編纂されました。その編纂に当たった一人藤原定家(ふじわらのていか)(1162~1241)は、百人一首を選んだとされていますが、業平も選ばれています。

2,伊勢物語の成立

現在我々が手にする125章段の『伊勢物語』は、藤原定家による天福2年(1234)書写の天福本がもとになっていますが、伊勢物語の成立については様々な研究があり、本展の図録では関西大学名誉教授山本登朗氏による「歴史のなかの伊勢物語」をご寄稿いただいております。

『伊勢物語』は、業平の和歌による歌物語ですが、業平が生きた時代に最も近い『古今和歌集』には、伊勢物語の中でも重要な章段で登場する話が多くあり、詞書の長いものがあるのも悩ましいところです。細部で違いもあり、双方の影響関係が問題とされています。ここでは当館で所蔵する『古今和歌集』(図14)、『後撰和歌集』、『拾遺抄』(図15)などの古い和歌集で業平に関する部分を展示いたします。

3,伊勢物語の展開

近世以降、伊勢物語の受容層を増加させるきっかけとなったのが、いわゆる「嵯峨本(さがぼん)」と呼ばれる豪華な版本の存在です。『嵯峨本伊勢物語』のうち、慶長13年(1608)に刊行された古活字版第一種本はその嚆矢で、本阿弥光悦風の流麗な書体と、豊富な挿絵が人気を呼び、覆刻(ふっこく)本が出されるほどでした。本展で展示する大東急記念文庫所蔵本は、雲母刷(きらず)りの表紙、色替わりの料紙を交えた、写本のような美しい作品です。

『嵯峨本伊勢物語』登場以降も、伊勢物語を扱った絵入りの版本はたびたび刊行されました。その中から本展では、菱川師宣(ひしかわもろのぶ)が絵を手掛けた『新版伊勢物語頭書抄(しんぱんいせものがたりとうしょしょう)』(図16)など、当代の人気絵師が関与した例や、版本の伊勢物語を文章・書風に至るまで忠実にパロディ化した『仁勢物語(にせものがたり)』(大東急記念文庫蔵)などを展示いたします。

展示室6伊勢物語の名所

伊勢物語にゆかりのある名所や、伊勢物語にちなんだ名所が日本の各所にあります。八橋(やつはし)は愛知県知立市の東部のゆかりの地が名所となっていますが、八橋と杜若(かきつばた)のセットは造園では定番のテーマです。和歌の本拠地である京都禁裏の仙洞御所の庭園にも八橋が造られていました。ここでは江戸時代の大工頭中井家に伝わった絵図(図17)を展示し、関連の写真を添えています。このほか各地の名所を写真でご紹介します。

展示室7伊勢物語の意匠化と芸能化
1,留守模様とデザイン化

留守模様(るすもよう)とは、登場人物を描かず、その物語を象徴するモチーフや、和歌や詩の一部の文字を散らして暗示する表現方法ですが、後者は葦手絵(あしでえ)とも呼ばれます。

漆工品や染織品などの工芸品のなかには、伊勢物語の章段のなかから選んだテーマを意匠化(デザイン化)したものが多くありますが、留守模様のデザインが多いと言えます。
蔦の細道蒔絵文台硯箱(図18)は、全体に蒔絵で雲形に蔦の葉が散らされ、修行者が背負う(おい)と結び文が配されています。人物は描かれていないので、第9段2「宇津の山」の留守模様といえます。

色絵竜田川図向付(図19)は、尾形乾山の作で紅葉と流水を大胆にデザインした色絵陶磁器です。伊勢物語からの発想とすれば、第106段「龍田川」の留守模様です。

 同じ龍田川がデザインされたと思われる打掛(龍田川に鳥)(図20)は、鳥がいるところから伊勢物語の留守模様とはいい難いのですが、「龍田川」と称しているところは、伊勢物語のイメージも含まれているといえます。

江戸時代における着物のデザイン集ともいえる雛形本(ひながたぼん)ですが、当館には約80冊余りの雛形本があり、今回そのなかから伊勢物語に関するデザインのあるものを12冊初公開いたします。ここで掲出する雛形本は、元禄3年(1690)に発行された「高砂雛形」(図21)より「井筒」部分(見開き右側)です。

2,伊勢物語の芸能化

伊勢物語は芸能の世界でも採り上げられています。ここでは能の世界での関係作品を展示いたします。
当館には旧金剛宗家伝来の能面が54面伝わっていますが、何れも重要文化財に指定されています。その中から展示室7では中将(ちゅうじょう)(鼻まがり)(図22)、小面(こおもて)(花の小面)、孫次郎(まごじろう)(ヲモカゲ)(図23)の名物面3面を展示いたします。このほか伊勢物語に関連する能装束、謡本、能絵かるたなどを展示いたします。

会期
2026年2月21日(土)~4月5日(日) ※会期中、展示替えを行います。
開館時間
10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日
2月22日(日)、3月16日(月)
主催
三井記念美術館
監修
河田昌之(大阪芸術大学教授、和泉市久保惣記念美術館館長)
協力
和泉市久保惣記念美術館、伊勢物語絵研究会
入館料
一般 1,500(1,200)円
大学・高校生 1,000(800)円
中学生以下 無料
  • ※70歳以上の方は1,200円(要証明)。
  • ※20名様以上の団体の方は( )内割引料金となります。
  • ※リピーター割引:会期中、半券のご提示で、2回目以降は( )内割引料金となります。
  • ※障害者手帳をご呈示いただいた方、およびその介護者1名は無料です(ミライロIDも可)。
音声ガイド
音声ガイドでわかりやすく解説いたします。(日本語のみ、貸出料700円)
入館
予約なしでご入館いただけます。
展示室内の混雑を避けるため入場制限を行う場合があります。

ご来館のお客様へのお願い

お問い合わせ先
050-5541-8600(ハローダイヤル)
topに戻る